しばらく黒猫と遊んでいると、


「ミザリー?」


と、声が聞こえた。


「ニャー」


ミザリーと呼ばれた黒猫がその方向へ走っていく。
私は黒猫を視線で追いかけ、声の主を見上げる。
逆光で顔はよく見えないが、私と同じ学校の制服を着た男子生徒のようだった。

「あんた、東高?」


それが男子生徒から私にかけられた1番最初の言葉だった。

私は無言で頷くと、男子生徒が近寄ってきた。

私は鞄を持って立つ。

すると相手の顔がよく見えた。


無口な不良、とみんなが言っていた気がする…
名前は確か…


斎藤 進(すすむ)


無口な不良の不良、というのがよく分からないが、
噂ではタバコを吸って先生にいつも注意されてるとか、他校や地元のヤバい人たちとつるんでるとか…
まだあった気はするが、この際どうでもいい。

どうしてこの人がここに…っていうか私が居るほうがおかしいのか。
この人の家はここの近くなのだろうか?


「そのリボンの色だったら、俺とタメだな」


と、またいきなり話しかけられたものだから、驚いた私は挙動不審になっているに違いない。

というか、斎藤進って無口じゃないのか?

チラっと上を向くと目が合う。
そして咄嗟に、


「その黒猫の名前が、ミザリーなの?」


と、別に聞かなくても分かるような質問をしてしまった。