だが、俺はそれ以上、かつ確実な方法を思いついた。
 どのくらいの時間が過ぎたのか、考えることに集中していた俺は、視線を感じ顔を上げて絶句した。
 一体いつからなのか、その子は俺の方をジッと見つめ、話し掛けてきた。

「おにいちゃん、いつまでそこにいるの?」

 俺は正直、焦って何もないフリをするのが精一杯だった。

「ねぇ?」

 不思議そうに俺を見上げるその瞳には、あきらかに俺の姿を捉えていた。

「おにいちゃんは、お話しできないの?」

 淋しそうな声で、俺に問いかけてきた。

 少しいじけた様な瞳で俺を見るとその子は窓を閉めて、ベッドに入った。
 そして、ニッコリと微笑みこう言った。

「必ず、ぼくを迎えに来てね」

 そう言うと、静かに寝息を立てていた。

「眠ったか……」

(この子には俺の姿が見えているのか?)

 俺の脳裏にはそんな考えが浮かんだ。
 だが、そんなはずはなかった。
 なぜなら、たかが人間に神を目視できるわけがないからだ。
 本当に特別な能力を持つ人間ならまだ分かるが、こんな幼い子供に、俺たち死神の姿が見えているはずがない。
 何かの勘違いさ。
 そう……俺の勘違い。
 俺は俺自身の馬鹿げた考えを否定した。
 だがその半面、期待もしていた。

「待ってろ。必ず迎えに来るから」

 そう言って、眠っているその子の頬にそっと触れた。

「……」

 死神にはない、いや、持つことのできないぬくもり、子供の温かく優しいぬくもりが肌を通じて伝わってきた。
 ただそれだけで、俺の躰は熱くなっていた。
 初めての感覚に俺は、戸惑ったが、この時俺の中には何ともいえない感情が生まれていることに気付くのはまだ先のこと。