私は生まれた時から父親がいなかった。
私の父親である人物はギャンブルに明け暮れ借金を作り、挙げ句の果てには母に借金の返済をなすりつけどこかへ消えてしまう最低な男だった。


母はそんな男と付き合ったせいで借金を払わなければならないのに私を妊娠してしまった。
普通なら堕ろすのに母は堕ろさず私を生んだ。そして女手一つで私を育ててくれた。
そんな母を見て育ってきた私は小さいながらにして「お母さんは僕が守る」と決心していた。


年月が経ち有名な私立高校に特別奨学生として入学し、弁護士になることを目標に毎日勉強していたある日、母は倒れた。
過労だった。
学校が終わった後、私は病院に向かった。
病室に入ると母は人工呼吸器を付けていながら、私に笑顔を向けてくれた。
母が無事だったことが嬉しくてたまらなかった。
私は母の横に立ち手を握り締めた。そしたら母は私に何か伝えようと口を動かしていた。私は母の口元に耳を近づけ聞き取ろうとした。


「鷹文、ありがとう」
そう言っていた。


「何言ってんの母さん、母さんの一大事に駆けつけないわけないだろ?」


私がそう言うと母はまた笑顔を浮かた。
そして目をつぶった。


「母さん?ねぇ起きてよ母さん、母さん…母さん!!」


ピー


病室には心電図の男が響いた。


「残念ながら、ご臨終です。」


近くにいた医師そう言われても母が死んだと理解するなんて出来なかった。