「ちょっと…圭…」



そう言っても圭はあたしにどんどん近付いてきて、掴まれていた手首ももっと強く握ってきた。



「…黙って。



今までずっと遠くから見ることしかできなかったんだから今日ぐらい許して。」



圭が近付いてくるたびに圭の優しい香りが漂ってくる。



そして切なそうにあたしを見つめてくる圭に



「ちょっと…待って…お願い」



とあたしの小さな抵抗の声を言ってみたけど、圭には届かなかったのかもしれない。



そして気付いた時には……










圭の唇が優しくあたしの右の瞼に触れた。



そしてそのまま圭の腕の中に包まれて、今にも消えてしまいそうな声で






「優さんに…杏を渡したくねぇよ。」







とあたしの耳元でそう呟いた。



そして本当はその後に続いていた



“頼むから俺のそばにいて”



というたった11文字の言葉はあたしの耳には届かなかった。