「圭…」



蚊の鳴くような小さな声でそう呼んだのにも関わらず、彼はバッとあたしの方を振り向いてホッとした顔をして待っていた。



「良かった、来てくれて。」



そんな顔を見てしまったらローファーだけを持って逃げようとしたことをできなくなってしまって



あたしは「…待たせてごめんね」と言ってローファーに履き替えると圭と一緒に昇降口を出た。



この空気すごく気まずい。


圭は何も話さず、どこかに向かって一心に歩いていて


話すことっていっても、約束をすっぽかして帰ろうと思っていたあたしには予想外で



……話題なんて何も思い付かなかった。



圭に着いていくと、数年前…あたしが圭の浮気を見てしまって別れを告げた公園に来ていた。



なんだか急に中学生の頃の自分と圭に戻ったみたいでたくさん楽しい思い出がよみがえってきた。



初めて手を繋いだこと。


泣き虫なあたしに優しく頭を撫でてくれて、近くの自販機に行ってジュースを買ってきてくれたこと。



毎日、圭が部活が終わるのを待っててその後一緒に帰ったこと。



夜になると淋しくなって、会いたくなってメールや電話をしたこと



この公園は嫌でいつも見ないように、行かないようにしてたのに



公園に入ると、圭との楽しい思い出がいっぱい浮かんできて余韻に浸っていると


真剣な顔をして圭があたしを見てきた。