いつもの駅前を通り過ぎようとした時。
 後ろから、あたしを呼ぶ声が聞こえた。

 「おーい。美羽、乗せて」
 朝一番に会うのが、城谷緋音。

 「はいはい」
 渋々止まるあたしとは裏腹に、ニコニコと鞄をカゴに放り投げて、
 『レッツゴー』なんて言っちゃってさ。

 日課になってから、毎日が筋肉痛。
 未だに慣れない、あたしも情けないけど。
 これのおかげで、遅刻しなくなったし。


 「そういえば美羽さぁ、お兄の大学に見学行きたいって言ってたよね?」
 「うん」
 「今日ならOKだってさ。…行く?」
 「もちろん」

 『お兄』とは、有名なK大に通う緋音の兄、楓くんのこと。
 楓くんは、あたしにとって、お兄ちゃん的存在。

 K大は、数々のファッションデザイナーが卒業している、専門学校のようなところだ。
 実は、父母は有名なデザイナーであり、K大卒である。
 なので、あたしもそれに継いでK大を目指している。


 どれだけ。
 どれだけこの日を待ちわびたか…。


 「迎えに行けないから、自分たちで来いだって」
 「了解」

 テンションが上がったあたしは、勢いよく自転車をこぐ。


 というわけで……
 放課後はK大へ行くことになった。