こんなの、ただの八つ当たりだ。
後悔の気持ちでいっぱいのまま、上げた視線の先。
「それって」
「え……?」
「俺は“男扱い”されてないって事?」
そこには、いつものキラキラとした仔犬のような顔ではなく、“男の人”の顔をした稜君がいた。
「……っ」
その表情に、その言葉に。
どんな言葉を返せばいいのか、わからない。
稜君はそっとその手を伸ばし、言葉に詰まる私の頬に、優しく触れたんだ……。
ドクンドクンと、心臓が痛いくらいに脈打ち始める。
まるで魔法にかかったみたいに、何も言えず固まる私に、稜君はもう一度口を開いた。
「ねぇ、美月ちゃん。俺も男だよ?」
「……」
「だから、女の子に触れたいとも思う」
「――……っ」
そのまま、私の唇をスッと撫でる。
その動きと、私を見つめる瞳に、鳥肌が立った。
「りょう、君?」
やっと口から出た言葉は、自分でも驚くほど掠れ、震えている。
「ごめんなさい。そういうつもりで、言ったんじゃなくて……」
どうすればいいのか。
何を言えばいいのか。
彼の言葉と行動に、ただただ戸惑う私の頬から、パッと離された稜君の手。
「え……?」
「でもね、」
そして、まるで何ごともなかったかのように続けられる言葉。
「俺は、触れたいと思うのも、抱きたいと思うのも、好きな子だけ」
そう言って、さっきまで私に触れていた手と、もう一方の手の平を私に向けて“お手上げ”のポーズを取った。
その瞳は、いつもと同じクリクリの瞳で、それを細めてふわりと笑う。

