「到着~!」
石段を登りきると、稜君は繋いでいた私の手ごとバンザイをして、そのままそれを、パッと離した。
そしてパタリと手を下ろすと、目の前に静かに佇む、やしろの階段に向かって歩き出す。
「……」
離された私の手に触れる空気は、夏なのに、何だかひんやりしていて……。
それが余計に、さっきまで触れていた稜君の温かい手の平を、強く意識させる。
「美月ちゃん、結構体力あるね! 俺バテちゃったよー」
うなだれて、大きく息を吐き出したあと、階段に腰を下ろした稜君は、
「美月ちゃん、こっちおいでよ! 花火、すっごい綺麗に見える!」
子供みたいに嬉しそうに笑って、手招きをした。
だけど、テクテクと言われるがままに呼ばれた場所まで歩いた私に、彼は“あー”と何かに気付いたように声を上げる。
「でも、座ったら浴衣汚れちゃうかぁ」
「ううん! 平気!」
私の浴衣を気にして立ち上がろうとする、どこまでも気遣い屋さんの稜君に笑いかけながら隣に腰を下ろすと、目の前が一気に明るくなった。
「ここ、穴場だねー! すごーい!!」
多少木が邪魔するものの、人混みに紛れる事もなく、目の前に上がる大輪の花火が見られる。
「ホントだねー。ラッキー!」
嬉しそうに笑う稜君の横顔は、花火の光でいつもよりも、もっとキラキラしていて、さっき秀君に掴みかかった時とは全く違う、優しい横顔。
「――ん?」
「あ……ごめん。何でもない」
つい見入っていた私の視線に気付いた稜君が、パッとこちらに顔を向けるから、“あからさま過ぎるだろう!!”って、自分でもって突っ込みたくなるくらいあからさまに、顔を背けてしまった。
「……」
だけど稜君は、俯いた私の顔を少し覗き込むと、そのまま何も言わずに、また花火が上がる夜空を見上げる。

