「ありがとう」
「……」
きっと私がまた謝ったら、稜君は責任を感じてしまうと思ったから。
「稜君、ありがとう」
もう一度、目の前を歩く稜君の背中に向かって、その言葉を繰り返した。
それと、ほぼ同時だったと思う。
ドーーーーン……
大きな音が響き、目の前が一気に明るくなる。
「花火」
ゆっくり立ち止り、私と同じように後ろを振り向いた稜君と、やっと目が合った。
「始まっちゃったね」
そう言って、少し笑った稜君。
「うん……」
繋いだままの手に、ほんの少し力がこもる。
息を呑み、そのキラキラした瞳を見つめる私に、少し困ったような笑顔を向けた稜君は“もうちょっと上まで行きたいんだけど、平気?”と、私の顔を覗き込んだ。
「うん」
「よしっ! じゃー、もうひと頑張り!」
私の手をもう一度ぎゅっと握って、にっこり笑うと、再び前を向いて石段を登り始めたんだ。

