それから私と稜君は、お互い言葉を口にする事もなく、手を繋いで人混みを抜け、オレンジ色の灯りが届かなくなる所まで歩いた。
目の前に現れたのは、長く続く石段。
稜君は、ゆっくりとその石段を登って行く。
「大丈夫?」
前を向いたまま、静かにかけられたその言葉が、この石段を登っている事に対してなのか、それとも、さっきの事に対して言っているのか……。
それがわからない私は、
「……うん」
小さく、そう返事をする事しか出来なかった。
――だけど。
「稜君」
「なーに?」
「ごめんなさい」
秀君とのゴタゴタに巻き込んでしまったことを、きちんと謝りたかった。
「何に対しての“ごめんなさい”?」
前を向いたまま、足を止める事のない稜君からのそんな返事。
「関係ない稜君を巻き込んで、嫌な思いをさせて。しかも、あんな事までさせちゃって。だから――」
“ごめんなさい”
続けようとしたのは、そんな言葉。
だけど、それを私が伝えるよりも早く、
「ごめん」
何故か、稜君が謝罪の言葉を口にした。
「美月ちゃん、ごめんね」
「え?」
当然の事ながら、彼の謝罪の意味が全くわからない私に、稜君はゆっくりと言葉を繋げる。
「さっき、ホントはあいつのこと殴ってやりたかったのに……。でも俺、自分の身を守る事を一瞬考えちゃったんだ。だから、ごめん」
「……っ」
稜君はプロのサッカー選手で、自分の身体が商売道具。
それ以前に、ケンカなんてしたら、サッカーどころじゃなくなる。
きっとさっきのだって、ギリギリの行為で……。

