彼の言葉を聞いて、結衣に言われた事を思い出した。
――“他に女、いるんじゃないの?”
まさに、その通りだったんだ。
私が花火大会に行かない事をわざわざ電話で確認したのだって、私を気遣ってではなく、こうなる事を避けたかったから。
こういう時“かわいい女の子”は、泣いて縋《すが》って「でも、好きなの!!」とか、言うのかな?
でも私は、そんな女には到底なれそうにない。
だけど全てを理解した瞬間、私の頭に浮かんだのは――バカみたいだけど、やっぱり秀君と過ごした楽しかった時間で……。
悔しかった。
それに、悲しかった。
彼女がいるのに、平気で私に好きだと言ってキスをして、私を抱いていた秀君。
私は、少し笑った。
その私の顔を見て、秀君は驚いた様子を見せる。
そりゃそうか。
こんな反抗的な態度を取ったことなんか、一度もなかったもんね。
「もういい」
「……」
もういい。
彼の真の姿を知ったのに、未だにこんな事を考える自分は可笑しいのかもしれないけど。
――これ以上、秀君を嫌いになりたくない。
それに、醜く歪んでいく自分の心が嫌だった。
そんな私の口をついて出たのは、
「ごめんね。私も、彼氏いるんだ」
そんなどうしようもない言葉。
本当は、こんな事に巻き込みたくなかったのに。
稜君、ごめんね……。
「だから、」
こんな酷い事をされたのに、こんな事をする私を見たら、きっと結衣は凄い形相で怒るんだろうなぁ。
「だからこれからは、お互い本当に大事な人だけを見よう?」
これは、私から秀君への最後のお願い。
真っ直ぐに瞳を見据えて口にした私の言葉に、秀君の顔がカッを赤くなる。
遊び相手の私にそんな事を言われて、彼はきっと悔しかったんだろう。
「俺、騙されてたんだなぁ」
「……」

