それから、しばらく二人でお酒を呑んだ。

もちろんそれ以上の事なんて、起こる事もなく。

ただ、稜君の話を聞いて大笑いをする私を、彼はずっとニコニコしながら眺めていたんだ。


「美月ちゃんはいっぱい笑ってくれるから、話し甲斐がある!」

時々そんな事を言いながら。


その後、家まで送ると言ってくれた稜君の申し出を、終電がまだあるからと断った私に、せめて駅まで送ると言ってくれた稜君。

それに頷いて、二人でマンションを出て、昼間よりもだいぶ涼しくなった道を歩く。


ほんの少し前を歩く稜君の背中は、当たり前だけど、やっぱり“男の人”の背中。

普段は少し子供っぽく感じる稜君とのギャップに、胸がドキドキする。


「あー、ごめん」

その姿に見入っていた私は、突然そんな声をかけられて、過剰に反応してしまった。


「えっ!? な、何が!?」

その私の反応に、一瞬不思議そうな顔をした稜君だったけど、そこには特に触れる事はなく、

「歩くの速かったね」

しばらくその場で立ち止まり、私が隣に並んだ事を確認すると、にっこり笑ってまたゆっくりと歩き始めたんだ。


少し蒸したような空気と、速まる心臓の鼓動のせいで、帰り道はほんの少し息苦しくて。

だけど、ほんのり心地よい。

そんな気持ちを赤の他人に抱いたのは、初めてだった。