稜君の手の平の温度に、心臓が大きく脈打った。

それはまるで何かを警告しているかのようで、私はゴクリと息を呑む。


だけど、見上げた稜君の瞳はとっても優しくて、私は、ほとんど無意識に伸ばした指で、稜君のシャツの裾を掴んでいた。


「ありがとう」

「へ?」

「優しいのは、稜君の方」

「……」

いつだって、おねぇーの事も、私の事も知っている、共通の知り合いは、

“美青ちゃんと一緒で、優しいね”

“美青ちゃんも、美月ちゃんも、優しいね”

そんな風に言うのに。


稜君は、今まで一度だって、私とおねぇーを比べる事はなかった。


「だから……ありがとう」

理由は話さず、また同じ言葉を繰り返す私に、稜君はちょっとはにかんで。


「面と向かってそんな風に言われると、結構照れるかも」

そう言うと、私の顔を覗き込み、「部屋、戻ろっか!」と目を細めて、また優しく笑ってくれた。


心がポカポカする。

今まで感じた事のないこの気持ちを知ってしまった私は、“もっと稜君の事が知りたい”と、そんな風に思ってしまう。

だけど……。


前途多難なこの恋を選べるほど、私は強くないし、幼くもない。


本当は、これ以上二人でいちゃいけないって事もわかってる。

私を信じてくれてる秀君に、後ろめたい感情だって、本当はとっくの昔に芽生えてる。

それなのに、目の前でクルクルと表情を変えて楽しい話しをたくさんしてくれる稜君から、目が離せない。


気持ちは嘘を吐けなくて、一瞬頭に浮かんだ、秀君との別れ。


なのに……。

それを打ち消す、弱い自分。