「じゃー、俺のチケットに気付いたのは?」
「昨日なの。ごめん。本当に」
「じゃー、俺……」
やっと私の声に反応するようになってきた稜君。
少しずつ色を取り戻していく、その瞳と声に、心が震える。
「フラれて、ない?」
「うんっ」
やっぱり稜君も、私があのチケットでこっちに来なかった事で、自分がフラれたと思ってたのだ。
自分が傷付くのが怖かった。
だから自分の気持ちばかりを優先して、メールを読まずにいて……。
その結果、彼をこんなにも悲しませてしまった事が申し訳なくて悔しくて、また涙が零れる。
「……ホントに?」
「ホントに!!」
未だに信じられないといった様子の稜君は、私のその言葉を聞いた瞬間、
「わっ……!!」
抱きついた私をくっつけたまま、後ろにストンと座り込んだ。
「腰」
「へっ!?」
「腰……抜けた」
「えぇっ!?」
驚いて大声を上げ、埋めていた胸元から顔を上げると、稜君は私の体をそっと離して顔を覗き込む。
「ホント?」
「え?」
「今の話、ホント?」
私を真っ直ぐ見据えたまま、揺れる瞳でもう一度、そう尋ねた。
その瞳に、一瞬止まった涙が、また溢れ出す。
そんな私に、戸惑いがちに伸ばされる稜君の指先。
それがそっと、私の冷え切った頬に触れる。
「俺、諦めなくていい?」
「――……っ」
「美月ちゃん」
「お願いだから、諦めるなんて言わないで!!」
「……」
「私……稜君しかいないんだから!!」
「うん」
「稜君じゃなきゃ、ダメなんだからっ!!」
「そっか」
稜君。
私の気持ち、ちゃんと伝わってる?
「稜君だって、そうでしょう? 私じゃなきゃ、ダメでしょう?」
その言葉が外の空気に触れたのと、ほぼ同時だったと思う。
「稜……っ」
名前を呼ぶことも出来ず、息が止まるのではないかと思うくらい強く、稜君の温かい胸の中に抱き竦められていた。

