バタバタと廊下を走り、ロッカールームの扉を慌てて開けると、そこには休憩中のユメちゃんの姿があった。


「あれ? 佐々木さん、どうしたんですか?」

「ユメちゃん、ごめんっ!!」

「え?」

突然の謝罪に、ユメちゃんは大きな黒目がちの瞳をますます大きくする。


「イギリスに行くの」

「いつですか?」

「出来れば、今日……」

そう言って、壁にかかる時計に目を向けた。

そんな私を見て、彼女は何かを感じ取ったのだと思う。


「佐々木さん、後で住所を教えて下さい!」

「……え?」

「ここにある荷物、私がまとめて送りますから!! だから、早く行って下さい!」

戸惑う私に、ここに来た時からは想像出来ないほどの笑顔を私に向けてくれたから。


「ありがと……っ」

思わずユメちゃんをギューと抱きしめて、口にしたお礼の言葉は僅かに震えていた。


「私、佐々木さんにずっと憧れていました。だから、ちょっとでも役に立てるなら本当に嬉しいんです!」

夢にも思わなかった。

まさかここで、こんなにも心を許せる人に出逢えるなんて。


「ありがとう、ユメちゃん。大好きだよ」

「私もですっ! ……早く行かなきゃですよ!」

「うん! ありがとう」

溢れてしまった涙を拭うと、もう一度ユメちゃんにお礼を言って会社を飛び出し、急いで家に向かったんだ。