ゆっくりと振り返ると、そこには机に頬杖を付きながら私を見上げる杉本さんの姿があった。
「そんなに彼のことを信じて平気なの?」
相変わらず脈絡のない質問に彼を見つめるけれど、やっぱり感情は読み取れない。
でも、仕事で迷惑をかけるのは申し訳ないと思うけれど、プライベートとなればまた話は別だ。
「はい。絶対に大丈夫です」
「相変わらず“棘ナシのバラ”か」
最後の最後までこの人は。
「余計なお世話です。失礼します」
呆れたように冷たく言い放ち、再び扉に向き直ったのだけれど……。
「ほら」
そんな言葉と共に、いつの間にか真後ろに立っていた杉本さんに何かを差し出され、再び動きを止める。
それは、何かの書類だった。
「うちのブランド、世界中に店あるんだけど」
そんな事は知ってるけど。
「佐々木さん、思ってたより頭悪いんだな」
「は?」
突然の暴言に、さすがの私も語調が荒くなる。
だけど、それ以上なにも言えなくなってしまったのは、目の前の杉本さんが今までに見せたことのないような表情を見せたから。
「異動願い、受理されたよ」
「……え?」
何を言ってるの?
「ちょうど日本語が話せるスタッフが産休入るんだと」
そう口にした杉本さんは、フッと笑って少し首を傾げながら、私の顔を覗き見た。
「だから佐々木さんも、彼と同じ“期限付き”だけどね」
「……」
「まぁ、あんたなら頑張れば正規職員になれるじゃないの?」
ワケが解らず目を瞬かせる私の目の前で、その書類を“早く受け取れよ”と言わんばかりにバサバサ揺らす。
震える手で、私がそれを掴んだ事を確認すると、杉本さんは何事もなかったかのようにまた自分のデスクに戻り、パソコンに向かった。

