「はぁ、はぁ……」
「佐々木さん?」
息を切らせながらお店に駆け込んだ私は、驚く同僚に駆け寄り声をかけた。
「あの、杉本さんはっ……」
「えっと、裏にいるけど」
「ありがとうございます!」
お礼の言葉と一緒に頭を下げた私は、もつれる足に力を入れながら杉本さんの元に向かった。
扉の前で呼吸を整えると、一度大きく息を吐き出し、意を決してその扉を押し開ける。
「――あれ? どうしたの?」
目の前の杉本さんは、目を大きく見開き、当然の疑問を口にした。
それはそうだ。
いくら休みとはいえ、こんな格好で職場にくるなんて。
しかも走ったせいで髪はボサボサだし、お化粧だってボロボロだろうし。
「あの、お話したい事があります」
「“話”?」
「はい」
「ふーん。取りあえず座れば?」
どこか素っ気ない返事を返した杉本さんは、使っていたパソコンを閉じると、私に座るように促した。
「申し訳ありません!!」
その目の前で、私はガバッと頭を下げる。
「何、急に」
「あの、仕事を辞めようと思っています。すぐには無理だという事は分かっています。でも……」
確か法律的には、退職の二週間前にその意思を伝えれば違法にはならないはず。
もちろん社会人としては、それは非常識だけれど。
頭を下げたままの私に、杉本さんは何も返事をしない。
今となっては、私的な感情だったのか、そうでなかったのかは分からないけれど……。
それでもこうして本店のスタッフに抜擢してくれた杉本さんには、本当に申し訳ないと思う。
「顔、上げて」
しばらく沈黙の後、やっと落とされた言葉に、私はゆっくり頭を上げた。
「理由は?」
「……」
「言えないような理由?」
「いえ」
「じゃー、ちゃんと話してよ」
静かな部屋には時計の針の音が響いていて、それが余計に緊張を誘う。
「イギリスに行きます」
私のその言葉に、杉本さんが呆れたように溜め息を吐いた。

