次の日。
仕事が休みだった私は、もう来る事はないと思っていたその場所で、大きな溜め息を吐いていた。
手の平には銀色のカギ。
このカギだって、本当は返さないといけないのに。
これって、不法侵入になるのかな?
でも、最後にもう一度だけ……。
私はゆっくりと手を伸ばし、明日には入る事が出来なくなってしまう稜君の部屋の扉のカギを開けた。
カーテンも取り外されて、ガランとしたその空間。
ここに二人でいた事が、まるで夢だったみたいに思えて、息を呑む。
だけど、微かに香る稜君の香りが鼻腔をくすぐった。
「――……っ」
確かに此処にいた。
二人でたくさん話をして、笑って抱き合って。
幸せな時間は、確かにあったんだ。
鼻の奥がツンと痛くなって、唇を噛みしめる。
一つ一つの部屋をゆっくりと歩くと、昔を思い出して、やっぱり胸が痛んだ。
まだ思い出すには早過ぎるに決まっている。
クスリと笑いながら、最後に立ち寄ったリビング。
「お料理も頑張ったんだけどなぁ……」
また小さく笑いながら、視線をカウンターに落とした。
「――あれ?」
目に留まったのは、そこに置かれた白い封筒。
「これ……は?」
いつからあったの?
震える指を伸ばしてそれを拾い上げてみたけれど、そこには宛名も差出人の名前も書かれていない。
まるで、何かに導かれるような感覚だった。
戸惑いながらも、ゆっくりとその封を切る。

