「……」
家に帰ってから、私はずっと、リモコンを握りしめたままテレビの前に座り込んでいた。
本当は、稜君の試合は全部ちゃんと録画してある。
今はまだ観られないけど、稜君は頑張ってるんだもん……。
別れたって、私が“川崎 稜”のファンである事に変わりはないから。
「んー……どうしよう」
床にパタリと倒れた私を、ポーキーがじっと見つめている。
「ポーキーも、私から離れて行っちゃうんだよねー」
溜め息混じりに携帯を手に取り、メールボックスを開く。
実は今日のお昼頃、初めて稜君のお姉さんからメールが届いたのだ。
稜君が入院していた時に、メアドを交換したのに、それさえ忘れていた私は、そのメールの差出人を見た瞬間、本当に驚いた。
【久し振りなのに、ごめんね】
そんな言葉で始まったメールの内容は――“稜君に頼まれたので、ポーキーを引き取りに行く”というものだった。
「はぁ……」
ポーキーをギュッと抱きしめて、ここ最近癖になってしまっている溜め息をまた吐き出した私は、リモコンの再生ボタンを押す。
「……」
どうしてだろう。
私は、痛み出した胸の辺りをグッと押さえる。
「稜君」
どうして、解ってしまうんだろう。
「やっぱり私は……稜君が好きだよ」
ねぇ、稜君。
稜君も、そうでしょう?
涙で霞む小さな箱の中。
ピッチの上の稜君は、何度も何度も空を見上げ、真っ白な息をゆっくりと吐き出す。
その瞳は、私を見つめていた時の、あの優しい眼差し。
だけど、それを静かに閉じ、前髪をくしゃりと握った稜君は、まるで何かを振り払うように頭を左右に小さく振る。
次の瞬間、開かれたその瞳は、あの日と同じ色を失った瞳をしていた……。
それを見た私は、止める事の出来ない涙を隠すように、膝に顔を埋めて、声を殺して泣いたんだ。
どうしたらいいんだろう。
私は、どうしたら?
何度も自問自答してみるけれど、もうどうしようもない事は解っている。
稜君は、私と離れる道を選んだのだから。
私に出来る事は、もう何もない……。

