「佐々木さん、今日も残業? 最近多いね」
誰もいないオフィスで、一人パソコンに向かう私に話かけてきたのは、帰ったものだとばかり思っていた杉本さんだった。
稜君と別れた日から一週間とちょっとが過ぎて、私はまた残業を無駄に増やし、バカみたいに仕事に打ち込んだ。
どこまでも、学習能力のない自分。
でもそうしないと、どうしても稜君の事を考えてしまうし……。
下手にテレビを点けて、稜君の試合が放送されていたりすると、また気持ちが沈んでしまうから。
「すみません。もう少ししたら帰ります」
杉本さんに視線も向けずに返事をする。
「……」
「何ですか?」
すぐにどこかに行くと思っていたのに、何故か私の隣から動かない杉本さんの視線を、痛いくらいに感じる。
「彼と、何かあった?」
「……」
「あったんだ」
無視を決め込む私を見て、クスッと笑った杉本さんの言葉に、胸がどうしようもなく痛み出す。
「杉本さんには、関係ないです」
「まぁねー」
もうホントに何なの!?
まるでからかうような口調にちょっと苛立って、もう一度口を開こうとしたその時、杉本さんの口をついて出た言葉に、私の心臓が大きな音を立てた。
「彼、大丈夫なの?」
「……え?」
「一応、プロでしょ?」
――どういう事?
「あのままじゃ、放出されちゃうんじゃねーの?」
意味が分からず顔を顰める私の前で、杉本さんは何が可笑しいのかクスクスと笑う。
稜君を侮辱するようなその発言に、当然怒りがこみ上げた。
けれど、今は動揺の方が勝っているせいか言葉が出てこない。
だって、どうして?
稜君が決めて、私と別れたんでしょう……?
だったら、どうして?
混乱する私の頭には、解決出来ない同じ疑問ばかりが沸き上がる。
「稜君は、今――」
「え?」
「……」
彼の現状を訊ねる言葉を口にしかけて、ハッとして口を噤む。
「調子、最悪。観てるこっちがイライラするくらいにね」
そんな私の顔を覗き込んで、変わらない口調でそう口にした後、杉本さんは「まぁ、俺はサッカーよくわかんねぇけどー」と、またバカにしたように笑った。
「……すみません。帰ります」
「そう」
「お先に失礼します」
「おー、お疲れさん」
杉本さんの言葉を背中で受けながら、私はモヤモヤする気持ちを抱えたまま会社をあとにした。

