カチコチと響く、いつもは大して気にもならない店舗の時計の針の音が、今日は自棄に耳につく。

何度も見上げたその針が二十時を指しすと、大通りに面したガラス張りの扉には鍵がかけられ、ディスプレー以外の店舗の照明が落とされた。


「お先しまーす」

「お疲れ様でしたー」

「お疲れ様です」

次々にかけられる同僚からの挨拶に、小さく頭を下げて返事をすると、私は一人でデスクに向かう。


あと十分だけやったら帰ろう。

そう思ったのが間違いだった――……。


「――よし。おしまーい!」

十分後、小さく独り言を口にした私は、パソコンを閉じてロッカールームに向かった。

自分のロッカーを開き、着替えながら一番最初にしたのは携帯のチェック。


もうここまできたら、ビビッててもしょうがない。

半ば開き直りながら、勢いよくそれをタップする。


「……」

日本に着いた時と、マンションに着いた時にメールをくれる事が多かったから“もしかしたら今日も”と思っていたけれど、見つめる携帯の画面には、何のメッセージも表示されていなかった。

たったそれだけで、何だか気持ちが重たくなる。

特にコレといった理由はないのかもしれない。

でも、サッカーが忙しくない時は基本的にマメに連絡をくれる稜君だから、きっとこんなに不安になってしまうのだろう。


「しっかりしろー……私」

自分に渇を入れた私は、大きく息を吐き出し、鞄を掴むと店舗を後にした。