辺りがすっかり暗くなった頃。

「ちょっとー! 雪降ってきたよ!!」

お客様を外までお見送りして戻って来たスタッフの声に、みんなが大きな窓ガラスに近寄って空を見上げた。


「ホントだー。どうりで寒いわけだ」

「えー……。もー、早く帰りたい」

口々にそんな事を言いながら持ち場に戻って行く同僚達を尻目に、私は少し焦っていた。


これは今年の初雪。

あまり雪が降らないこの辺りの交通網は、雪にめっぽう弱い。

視線を落とした腕時計の針は、十九時四十分を指している。


稜君は、もうマンションに着いたかな?

あと数週間で契約が切れるあのマンションで、稜君に逢うのは、きっともう最後になる。

そう思うだけでちょっと緊張するし、それだけで、胸が痛くなった。


稜君、まだ電気を止めていないといいんだけど……。

きっとエアコンが点かないと、今日の寒さはキツイよね?

そんな事を冷静に思いながらも、今朝から心臓はドキドキしっぱなしで……。

手も震えてるし、よくわからないけれど泣きたくなる。


あんなに近くて、大好きな稜君を、今は少し遠い存在に感じている自分が嫌だった。


閉店まであと二十分。

その後、少し残業をしないといけないから、逢えるのは本当に数十分だけ。


キリキリと痛み出した胃の辺りを摩りながら、深呼吸をひとつした私は、誰にも何も悟られないように、無理やり笑顔を作って仕事に戻った。