「困った男だな」

そう言いながらも、お父さんは私の頭を大きな手で撫でて、何故か嬉しそうに笑ったんだ。


「お父さん。私、稜君が好きなの」

「……うん」

「稜君の所に、行こうと思ってた」

「……」

「ごめんなさい」

止まらない涙を子供のように流し続ける私の言葉に、お父さんは何故か、少しだけ嬉しそうにその瞳を細めて笑う。


「どうして謝るんだ?」

「だって私、お父さんとお母さんに何も相談しないで」

しゃくり上げる私の頭を、また優しく撫でるから、どうしても涙が溢れてしまう。

そんな私に、お父さんはまるで何かを諭すような口調で言った。


「美月?」

「うん」

「お父さんとお母さんは、美月に幸せになって欲しいと思ってる」

「……」

「それが“どこで”かは、問題じゃないよ?」

「っ……お父さん」

「美月が幸せだと思える人の傍にいるのが、一番」

少し淋しそうに、だけどどこか嬉しそうに笑うから、もう泣きたくなんかないのに、ボロボロと零れる涙が、やっぱり止まらない――……。