「みーつーきーちゃん! おーい!」
「あっ、ごめん! どうしたの?」
ゴチャゴチャと考え事をしていた私の目の前で、ヒラヒラと振らていた稜君の手にハッとした。
せっかく稜君が隣にいるのに、考え事なんて……。
「大丈夫? 疲れちゃった?」
心配そうに私の顔を覗き込む彼に、慌てて首を振る。
「ううん! 大丈夫だよっ!」
「ホントー?」
「うん! 元気!」
「ならいいけどー。美月ちゃんの荷物、もう全部持って帰ったんだね」
ガランとした部屋を見廻しながら、私を気遣っていた稜君がポツリとそう口にした。
それにつられるように、私も部屋を見廻す。
ちょっと前まで、ここにいつも二人でいた事が嘘みたい。
別れるわけじゃないし、私が実家に帰るだけで、二人の関係に変化が起きるわけじゃない。
だけどやっぱり淋しい、この風景を悲しいと思ってしまう。
涙が零れそうになって、それを堪えようとゆっくり息を吐き出した私に、稜君の腕がスッと伸ばされる。
その腕に私も手を伸ばし、広い胸に顔を埋めた。
「何で泣いてるんだろうねー、私」
ポツリと呟いた私の頭上から、稜君の優しい声が落とされる。
「大丈夫だよ」
「……え?」
「俺もちょっと泣きそうだから」
そして、一度深呼吸をした後、
「もう後戻りは出来ないなぁー」
少しこわばった声で、そう言ったんだ。
――そうだ。
稜君は、私なんかとは比べ物にならないくらい不安なはず。
頑張っている稜君に“頑張って”なんて言葉をかけるのは間違えてると思うから、私は背中に回した腕に力をギュッと込める。
言葉に出来ない気持ちが、こうする事で少しでも伝わればいいのに。
そんな気持ちに、きっと気付いた稜君は、私を一度ギューっと抱きしめて、いつもよりも低くて、少し掠れた声で言葉を落とす。
「顔上げて?」
そして、ゆっくりと顔を上げた私の頬に添えられる、稜君の温かい手の平。

