「稜、しんどそうですね」

航太君の口調は少し困ったような、苦しそうな口調で、稜君を心配している様子がひしひしと伝わってくる。


「うん。……ねぇ、航太君」

「はい」

「稜君は今、どんな気持ちなのかな? きっと辛いよね?」

「……」

何も言わない航太君が、無言でそれを肯定しているように思えて、胸が痛くなる。

思い出すのは、試合の途中、空を見上げる稜君の姿ばっかりで……。


「稜君ね……っ」

泣きたくないのに、涙が止まらない。

「辛い事があったら……話すって……言ったのっ!!」

堰を切って溢れ出した感情は、もうコントロール出来なくて、気付いた時には、叫ぶようにそう口にしていた。


「なのにっ……何も言ってくれない!」

「……」

「私はもっと稜君の力になりたいのに」

しゃくり上げる私の言葉に、航太君はほんの少しだけ笑いながら、優しい口調で私に話しかけた。


「美月さん、ちょっと待ってて下さい。人払いしてきます」

――人払い?


「美青ー。ちょっと向こう行ってて」

「わかった。話し終わったら、ちゃんと代わってね」

その意味がよく解らないでいる私の耳に届く、航太君の言葉と、それに続いて少し遠くから聞こえたおねぇーの返事。


“人払い”って、おねぇーの事?


「もしもし?」

「あ、うん」

「スイマセン。これから話す事は、ちょっと美青に聞かれたくなかったから」

そう言って、航太君は少し困ったように笑った。


おねぇーに聞かれたくない話?

稜君の話のはずなのに……。

最初は何だか違和感を覚えたけれど、その理由は、話をするうちに徐々に解明されていった。