未だにボーっとしている私の視線の先にあるテレビでは、いつの間にか稜君達の試合は終わり次の試合の放送が始まっていた。

まるでさっきの事が嘘だったみたいに、何事もなかったみたいに……。


外の空気が吸いたくなった私は、眠ってしまったポーキーを起こさないよう、静かにベランダに出た。


「さむっ」

小さく呟いた言葉と、吐き出された白い息。

ゆっくりと空に昇っていくその息は、いつの間にか、溶けるように濃紺色の空に消えていった。


私の手の中には、携帯電話。

こんな時、電話をしてもいいの?

私の声を聞きたいと、そう思ってくれている?

それとも、そっとしておいて欲しい……?


考えても考えても、それがわからなくて、私はそれを握りしめたまま、また空に向かって溜め息を吐いた。


しばらく考え込んで、携帯を握り直す。

だけど、そこでまた一瞬躊躇してしまう。

だって、何て声をかければいいの?


“大変だったね”

“大丈夫?”

“元気出してね”

たくさん思い浮かべてみるけれど、どれもしっくりこない。

こんな時、言葉のレパートリーの少ない自分が本当に嫌になる。


「んー……」

それは、ひと唸りしてベランダの柵に腕を置き、そこに頭を擡《もた》げたのとほぼ同時だった。


~♪~♪♪~♪~

「わっ……」

静寂を切り裂くように、手の中から響いたその音。

慌てて手を開いて、画面を確認する。


こんな時間に電話をかけてくる人なんて、一人しかいないのに……。

それでも、そこに映し出されたその名前に胸がひどく震えて、何故か涙が溢れ出てしまう。


そこに表示されていたのは――“川崎稜”。

大好きな、彼の名前。