夕食を終えて一休みをして、夜の九時半を回った頃。

「ねぇ、稜君?」

白く靄のかかる扉越しに、私は思わず声をかけた。


「ん~?」

「あのさ……」

「うん?」

エコーがかかる彼の声に、つい口籠もる。


「えっと、ね?」

「あ! もしかしてー……恥ずかしいとか?」

「いや、うん。まぁ、それもあるんだけど……」

「えー? なになにー? 取りあえず入って来なよ~!」

私の複雑な女心とは裏腹に、すごく楽しそうな、ウキウキしたような彼の声が浴室内に響いた。


「はぁ……」

その声に溜め息を吐き出した私は、鏡に映る自分の脇腹をちょっと摘む。

実は最近、ちょっと太ったんだよねぇ。

稜君がサッカーを頑張って痩せちゃったのに、私は何故っ!?


あぁ、嫌すぎる。

こんなポヨポヨしたお腹を、見られなくない。

しかも暗い場所ならまだしも、煌々と電気が灯されているあんな狭い空間で。

でも、入らないワケにもいかないし……。


「――よしっ!」

覚悟を決めた私は、ゆっくりと曇ったその扉を開き、隙間から頭を差し込んだ。