体型的に、元からヒョローっとしているタイプだとは思うけれど、前よりも顎の辺りがシャープになった気がする。


「稜君、練習大変?」

少しだけ心配になって、ついそんな言葉を口にしてしまった。


「――え?」

一瞬驚いた顔をした稜君を怖ず怖ずと見上げながら、一度は飲み込んだ言葉を口にした。


「ちょっと痩せた気がしたから」

それを聞いて、私からスッと顔を背けた稜君は、

「えー? 痩せてないよー。むしろ最近、お腹が出てきた気がする!」

まるで何かを誤魔化すように、そう言ったんだ。


「……」

やっぱり、どこか変。

そのままその顔を見上る私に、もう一度視線を戻した稜君は、私の頭をポンポンと撫でて……。

「美月ちゃんには、敵わないなぁ」と、ちょっと困ったような笑みを浮かべた。


「何かあったの?」

私の問いかけに、稜君は小さく首を振る。


「最近自主練の時間増やしてて、あんま時間ないんだー」

「……そうなの?」

「うん。ちょっとフィジカル強化しないとなぁって思ってさ。ほら、向こうの選手って、みんな当たり強いから!」

「そっか」

視線を手元に移して、小さく呟いた私を、ちょっと笑った稜君は、

「心配かけてごめんね。これからは、もうちょっとちゃんとご飯食べるようにする!」

そんな風に言って、私を安心させるように笑った。


だけどそれって、裏を返せば今はちゃんとご飯を食べていないって事でしょう?

稜君との間のその距離が、特にもどかしく思えるのはこういう時。

お料理は得意じゃないけど、それでも一緒にいられたら、下手なりにも稜君にご飯を作る事が出来るのに。


――やっぱり悔しい。

今でもこうして感じる距離に、やっぱりシュンとしてしまう。

そんな私を見た稜君は「大丈夫だよ」と、まるで自分に言い聞かせるように小さな声で呟きながら、ギュッと私の体を抱きしめた。


「ねぇ、稜君?」

「なーに?」

「何が食べたい?」

「えー? どしたの、急に」

「今度また稜君の所に遊びに行くまでに、練習しておくから、食べたい物いっぱい教えて?」

“だから、無理はしないで”そう続けたかったけど……。


稜君のいる世界は、無理をしてでも頑張らないとダメな世界なのかもしれない。

そう思ったら、私はその言葉を口にする事が出来ず、呑み込むしかなかったんだ。

だけど、私の言葉にフッと笑った稜君は、きっとそれに気付いているのだと思う。


「ありがとう」

「……」

「でも、美月ちゃんが作ってくれる物なら何でもいいよ。何でも好き」

覗き込むように私の目を見つめて優しく笑う稜君に、胸が僅かに軋んだ。