玄関に入ると、後ろに続く私を振り返った稜君は、にっこり笑って相変わらず冷たいままの唇で“チュッ”と短いキスをした。


「ただいまのチューゲットー」

この場所で久々に交わしたキスに少しドキドキする私を見て、嬉しそうにリビングに向かう。

離れていても変わらない彼の行動や言葉に、どこかホッとしながらその背中を見つめていた。


「あれ? 何かいい匂い……」

軽い足取りで廊下を進み、扉を開けてリビングに入ると、美味しい食べ物の匂いが私の鼻腔をくすぐる。


「帰って来てからちょっと時間あったから、ご飯作っちゃった!」

「嬉しいっ! ありがとう! 実は、お腹ペコペコだったんだぁ」

手に持っていたカバンをソファーに放り投げ、大急ぎでコートを脱ぐ私を見て、稜君も着ていたジャケットを脱ぎながら、にっこり微笑んだ。


「たまには外食もいいかなぁって思ったんだけど、二人でゆっくりするなら、やっぱり家の方がいいかなって思って」

「うんうん! 外食よりも、稜君のお料理の方が好き!」

そんな風に言って笑う私を、稜君は目を細めながら嬉しそうに見つめる。

その顔を見て、私はやっと“本当に稜君が帰ってきたんだ”って、実感出来るんだ。


「美月ちゃんがそう言ってくれるなら、俺はいつだって作りますよー」

私も手伝いをしようとキッチンに入り、鼻歌交じりに食器を取り出す稜君の隣に並ぶ。


「……あれ?」

「ん? どうしたの?」

隣の彼を見上げた私が覚えたのは、小さな違和感。


「稜君、背伸びた?」

「いやー? 多分、伸びてないと思うけど」

「そっか」

何でそんな風に思えたのか。

ちょっと首を傾げた私は、その理由を考えて……。


「……」

あぁ、そうか。

少し痩せたのかもしれない。

そんな結論に至って、口を噤んだ。