「家帰ったら、お風呂一緒に入ろ? それで、体が温まったら……」
「う、うん?」
「もっともっと、体が熱くなる事しよっか?」
顔はすごく熱いはずなのに、耳元で囁かれた言葉のせいで、体中に鳥肌が立つ。
「それについて、どう思う?」
そんなの――
「聞かなくても解るでしょう?」
「うん。でもね、それを美月ちゃんの口から聞くからいいんだよ?」
少し低い声で囁いて、クスクスと笑う稜君は、本当にずるい。
「でもその前に、腹ごしらえだー!」
目をパチクリさせる私の頭に、彼は昔と同じように、ヘルメットをカポッとかぶせた。
「からかった?」
「んー? ちょっとだけねー」
自分のメットをかぶりながら笑う稜君に、唇を尖らせる。
こんなの、稜君ばっかり余裕があるみたいで何だか悔しい。
「美月ちゃん?」
「何よー」
「そんな顔すると、」
「ん?」
「またチューするぞー」
「……」
「ん? チューしちゃうよ?」
「うん」
「えっと……」
「したいんだもん」
だって、まだ全然足りない。
その顔を見上げる私に、稜君は一瞬天を仰ぎ、フーッと息を吐き出した。
「あぁー……悔しいなぁー」
そんな言葉と共に、私に視線を戻した稜君は、何故かさっきの私のように、眉間にシワを寄せている。
「完敗。試合前なのに、縁起悪いなぁー」
そのまま何かを諦めたように笑うと、私の唇を、少し冷たくなった唇でそっと塞いだ。