「あっ! すみません、勝手に覗いたりして!!」
「ううんー、平気。仕事サボって観てた私の方が悪いし」
そう言いながら時計に目をやると、ちょうど終業時間を過ぎたところ。
「ユメちゃん、今日はもう仕事終わりにして、ちょっとお茶付き合ってー」
「え?」
「ちょうど、終業時間!」
時計を指差した私に、ユメちゃんはやっとホッとしたような笑顔を向けてくれた。
「イギリスから美味しいお菓子届いたから、ユメちゃんと一緒に食べようと思って持って来たんだー!」
ウキウキしながらカバンから取り出したのは、稜君が送ってくれた“ミンスパイ”。
「それって、イギリスのお菓子なんですか?」
「そう!」
「へぇ……。佐々木さん、イギリスにお知り合いがいるんですね!」
「へ!? 何で!?」
突然のその言葉に、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「えっと、さっき“イギリスから届いた”って」
「あー、そっか!」
浮かれすぎて、無意識にそれを発したらしい自分が恥ずかしくて、頭をポリポリと掻く。
「もしかして、彼氏さんですか?」
「えぇっ!? な、何で!?」
「前に他の方に、佐々木さんは遠距離恋愛だって聞いたんで……」
「そ、そっか」
「彼氏さん、イギリスにいるんですね」
「うん。そうなんだぁー」
ちょっと照れながら口にしたその言葉に、ユメちゃんは何故か目をキラキラさせて……。
何事かと目を瞬かせる私に向かって、驚くべき言葉を口にした。
「やっぱりそうなんですねっ! 嬉しいです!! 実は私も遠距離なんです!」
「……そうなの?」
「はい! と言っても、私は国内ですけど」
話を聞くと、ユメちゃんは今回の異動で、遠距離になってしまたらしく、離れ離れの淋しさと、仕事の辛さで押し潰されそうだと言って視線を落とした。
彼女のその姿が、本当にちょっと前の自分と重なる。

