「佐々木さん~っ!」

「はぁーい」

名前を呼ばれて振り返ると、視線の先には、両手いっぱいの洋服を抱えている澤野 夢花(さわの ゆめか)――通称ユメちゃんの姿があった。


「ありがとうございますっ!! いつもすみません」

クスクスと笑いながら、その荷物を半分受け取った私に、彼女は涙目になって頭を下げる。


「別にそんなに謝らなくていいから!」

少し前に本店に異動になったユメちゃんは、まるで数ヶ月前の私のように、相変わらずな本店スタッフによって裏方さんに追いやられようとしていた。


「大丈夫?」

私の問いかけに、彼女は眉をハの字にした。


「……はい。何とか」

「そっか」

私はちょっと笑って、彼女の頭をポンポン撫でる。


「今は辛いと思うけど、一緒に頑張ろうね」

「はい……」

私も相変わらず裏方の仕事が多いけれど、少しずつ接客の仕事にも戻れるようになってきている。

だけどそれは、私がやっていた仕事がユメちゃんに移行しているだけのこと。

だから私は、ユメちゃんとお互いの仕事を、極力半分ずつ分担してこなすようにしていた。

あの時のような辛さを、ユメちゃんにまで経験させたくないって、そう思ったから……。


まるで昔の私のように、目の前でシュンとしているユメちゃん。

だけど、そんな彼女にかける言葉を探していた私の耳に、小さな声が届いた。


「あれ?」

ユメちゃんは、ちょっと首を傾げながら、私のパソコン画面を眺めている。


「佐々木さん、サッカー好きなんですか?」

「あぁっとーー!! ごめん、これ観てたのは、他の人には内緒ね!!」

私は苦笑しながら、慌ててそのウィンドウを閉じた。

ちょうど今、稜君が試合をしていて、それをこっそり観ながら仕事をしていたのだ。