「“ブリティッシュ·エアウェイズ”。あれかー……」
一人で呟きながら、デッキのベンチに座り、その三色でペイントされた機体を眺める。
稜君は今、あの飛行機の中で何を思っているんだろう?
“速攻で寝る!!”って言っていたから、もしかして、もう寝てるかな?
その姿を想像して笑った私のカバンの中で、携帯が小さく振動した。
そして、それを開いた瞬間、泣きそうになった私は、静かに空を見上げる。
「やだなーもー……」
手の中の携帯の画面には、稜君から届いた、一通のメール。
【行ってきます。いっぱい幸せもらったから、向こうでまた頑張れそう!】
そして――
【いつもありがとう】
続いていたのは、そんな言葉だった。
「ありがとうは、私のセリフだよ……っ」
【好き勝手にメール、第1弾でした】
きっと、電源を落とすギリギリ前に送ってくれたそのメール。
だって、そのメールを読み終えた瞬間、稜君を乗せた飛行機が、滑走路に向かって動き出したから。
きっともう電源は切ってるよね?
だけど、好き勝手送るメールだから……。
【行ってらっしゃい。これからも、同じ空の下で頑張ろうね】
少し震える指と、どうしても滲んでしまう視界。
いつもよりも作るのに時間がかかってしまったメールが送信された瞬間。
轟音を響かせた機体は、真っ青な空に、羽根をキラキラさせながら飛び立った。
「稜君……っ」
こうして涙が出るのはしょうがない。
だって、淋しいのは当たり前だもん。
でも、もうそれに押し潰されたりはしないから……。
辛くなったら、こうして空を見上げよう。
――“10,000キロ先の空の下に、あなたがいる”
少しの時間を飛び越えた同じ空を、あなたも見ている。