「じゃー、行ってくるね」

「うん! 行ってらっしゃい!」

ゲートから少し離れた柱の陰で、私をギュッと抱きしめた稜君は「ここなら、見付からないでしょ!」と、私に優しいキスを落とした。

だけど、それと同時に聞こえたアナウンスに、一瞬困ったような笑顔を浮かべる。


「行かなきゃだね」

「だねー……」

「ねー、稜君。私、ちゃんと稜君の活躍見てるから」

「……うん。ありがとう」

「今度は、絶対大丈夫」


自信満々に笑った私の頭を、ナデナデした稜君は、

「無理はしないで。……お互いね」

優しく笑いながら、私の頬に手を添えて、唇にチュッと短いキスをすると、手を振りながらゲートの中に消えて行った。


その背中が見えなくなっても、しばらくの間そこで立ち止まっていた私は、フーッと長い息を吐き出す。

本当は、もう少しそうしていたかったけど……。


「さてっ!」

気を取り直すように、腕時計に視線を落とした。

会社に行くまでには、もう少し時間がありそうだ。


「……」

さて、どうしよう。

早めに行って、杉本さんと二人きりとかだと最悪だしなぁ。


「……そうだ」

ある事を思いついた私は、まだ人もまばらな空港内を歩き、カフェで熱いコーヒーを買うと、上りのエスカレーターに向かった。


しばらく歩いて、着いた先は、展望フロア。

いつもは下から見上げていたその大きな機体が、今は眼下に見下ろせる。


稜君が乗っているのは、どれだろう。

キョロキョロと周りを見回すと、エンジンがかけられ、離陸準備をしている機体は二機だけ。