杉本さんが角を曲がって、その背中が見えなくなった瞬間、腰が抜けたように、私はその場にペタンと座り込んだ。


「わわわっ!! 美月ちゃん!? だ、大丈夫!?」

慌てて私の前にしゃがみ込んだ――“多分”稜君。

だって、未だに目の前に彼がいる事が、どうしても信じられない。


「……稜君?」

「うん?」

「稜君、だよね?」

「うん。そうだよ?」

目を見開く私の目の前で、フワッと笑ったその人は、正真正銘“稜君”で……。


「稜君っ!!」

「――わあっ!!」

勢いよく飛び付いて、その首に腕を回してギュッと抱きついた。


あぁ、稜君だ。

その香りも、その温もりも。

全てが、稜君を感じさせるもの。


「稜君……」

私の勢いに尻もちをついた稜君は、私をその長い腕で包み込み、そのままギューッと抱きしめる。


「ただいま」

「……」

「美月ちゃん?」

返事をしない――というか出来ない私を覗き込む稜君の顔が至近距離にあって、さっきから頭の中でグルグル回っている言葉を、やっとの思いで口にする。


「どうして」

「へ?」

「どうして、いるの?」

未だに混乱して泣きそうな声を上げる私を、優しい眼差しで見つめた稜君は、私の顔を覗き込みながら何も変わらない笑顔をふわりと浮かべた。


「約束したでしょ? “美月ちゃんが淋しくて耐えられない時は、一番早い方法で帰ってくる”って」

どうしてこの人は。


「――……っ」

彼の言葉に、耐えていた涙が、ポロポロと頬を伝う。