バツが悪そうに口を閉ざした杉本さんを、稜君が無言で見下ろす。

しばらくの沈黙の後、ゆっくりと口を開いたのは稜君だった。


「悪いけど、あんたを間に入れてやれる隙間なんてないんだよね」

「……」

「解ったら、帰ってくれますか? 俺達、久し振りに逢ったんですよ」


下を向いた杉本さんの表情は、私の立っている位置から見ることは出来ない。

だけどきっと、あの自信家の彼のことだから、これを屈辱だと感じないはずはないと思う。

それでも稜君は、畳み掛けるように躊躇なく言葉を吐き捨てていく。


「無駄な時間を使いたくないんで。それと、もう一つ。危機感は、いつも持ってますよ」

「え?」

思わず声を出してしまった私に、稜君は一瞬、はにかんだような笑顔を向けた。


一体、どこから聞いていたの?


「こんな可愛い子が彼女なんだから、危機感抱かないわけないでしょ。あんたみたいな男もいるしね」

にっこりと笑う稜君に舌打ちした杉本さんは、視線を上げると、まるで睨みつけるようにそれを私に向けた。

だけど、稜君がそれを見逃すはずもなく……。


「一応言っときますけど、美月ちゃんに何かしたら、大変な事になるのはあんたの方だからね」

「な……に?」

「美月ちゃん、時々ちょっと抜けてるんですよ」

「どういう意味だ?」

眉間にシワを寄せる杉本さん対し、パーカーのお腹のポケットに手を突っ込んだ稜君は、何故か楽しそうに笑った。


「俺が何で、タイミングよく降りて来たと思います?」

「……」

「彼女の携帯、繋がったままなんですよ」

それを聞いた瞬間、見開かれた杉本さんの瞳。


「でもって、俺の携帯でそれを録音中ー。しかも結構、序盤から」

そこまで言うと、稜君はやっぱりいつものように柔らかい笑顔を浮かべ、もう一言、低い声で付け加える。


「意味、わかりますよね?」

その言葉に、悔しそうに視線を逸らした杉本さんは、小さな声で「佐々木さん、悪かったよ」と、謝罪の言葉を口にして、信じられないほどすんなりと来た道を引き返して行った。