私の様子がおかしい事に気付いた稜君の声が、少し低くなる。
「うん。ちょっと……」
「今、どこにいるの?」
「マンションの前なんだけど」
どう説明すればいいのかがわからなくて、口篭りながら答える。
“助けて”なんて、言えるわけもないし……。
「大丈夫。すぐ部屋に戻るから」
「ホントに大丈夫?」
「うん」
「……わかった」
「一回切るね」
少し納得のいかない様子の稜君にそう告げて、電話を切った。
相変わらず何を考えているのかがわからない杉本さんが目の前にいる状況に変わりはない。
だけど、稜君のおかげで、少しいい事を思いついたよ。
「あれ? もういいの?」
吸っていたタバコを、ギュッと携帯灰皿に押し込んだ杉本さんが振り返る。
「はい。急に休みが取れて、彼が戻って来ているみたいです」
――そんなの、もちろん嘘。
でもこう言えば、さすがの杉本さんでも帰るだろうと思った。
「そう」
「ですから、もう帰って下さい」
だけど、私をジッと見下ろしていた杉本さんは、少しだけ考えるように上を向き――次の瞬間、信じられない事を口にしたんだ。
「丁度よかった! せっかくだから、会わせてよ。佐々木さんの彼氏に」
「は?」
「話してみたいし」
そんな事を笑いながら言う杉本さんは、きっと気付いている。
私が吐いている、嘘に……。

