駅で電車を降りた私は、足早に稜君のマンションに向かう。
ポーキーはもう寝てるかな?
最近あまり構ってあげられてない事を気にしながら、マンションのエントランスに続く道を、曲がった瞬間だった……。
「へぇ。いいとこ住んでるんだな」
「……っ!!」
後ろからかけられたその声に、私の肩がビクッと震えた。
ゆっくり振り返ると、そこにはマンションに向けていた視線を、私に落とす杉本さんの姿があって……。
「あとを、つけて来たんですか?」
驚きと僅かな恐怖に、心臓がドクドクと嫌な音を立て、声が震える。
そんな私を見て、杉本さんは何故か楽しそうに笑う。
「まさか! さすがの俺も、そこまでストーカーチックじゃないよ」
「じゃーどうして?」
「いや、たまたま電車で見かけてさ」
全然気が付かなかった。
私よりも先に出た杉本さんが、まさか同じ電車に乗っているなんて。
偶然だったのか、仕組まれた事なのか。
いずれにせよ、こんな所まで私をつけて来た杉本さんに、小さく顔を顰める。
「佐々木さんの家はS駅のはずなのに、全然違う所で降りたからさ。どこ行くのかなぁーって思って」
「それを、“あとをつける”って言うんだと思いますけど」
「あー、そうか」
悪びれもなく笑う杉本さんは、一体何がしたいのか。
「どうして、こんな事」
「ん? だって、佐々木さんが俺を避けるから」
さも当然と言わんばかりの物言いに、呆気に取られてしまう。
「俺、言っただろう? 諦めないし、奪うつもりでいるよ?」
「……」
「それにしても――」
何も言わない私から、杉本さんが再び向けた視線の先にあるのは、稜君の部屋があるマンション。
「随分いい所だね。うちの給料で、ここで独り暮らしって事はないよね」

