「すみません、仕事が進まないので」
素っ気ない言葉を口にして、パソコンに向き直った私を、しばらく無言で眺めていた杉本さんだけれど、
「わかったよ。今日のところは帰るよ」
そう言って、立ち上がった。
こっそりホッとしたのも束の間。
「明日も誘うから」
飄々とそんな事を言ってのける杉本さんは、私の眉間にシワを寄せた顔を見て笑うと、ヒラヒラ手を振りながら帰って行った。
「はぁ……」
誰もいなくなったオフィスで、大きく溜め息を吐いて天井を仰ぐ。
「実はもう、仕事終わってたしねー。行きませんよーだ」
小さく独りごちた私は、パソコンの電源を落とし席を立つ。
仕事なんて、二十分近く前に終わっている。
杉本さんの誘いを断る口実を作る為に、貴重な時間を無駄にするのは痛いけど……。
まぁ、いつまでも強引に付き纏われるよりは、かなりマシ。
席から立つとオフィスの電気を全て消し、警報装置の電源を入れて、一応杉本さんに警戒しながら会社を後にした。

