「ありがとうございました!」

会社を出てタクシーで向かったのは、稜君と私の大切な場所。

稜君と離れてから、私はここに一人で来る事が出来ずにいた。


だけど……。

“辛くなったら、空見て”。

そう言った稜君の言葉が、頭の中に蘇る。

どうしても、ここからもう一度始めたいって、そう思ったんだ。


頭上すれすれを飛んで行くその大きな機体を一瞬見上げ、震える指で、履歴から稜君の名前を呼び出して通話ボタンを押す。


「……」

稜君。

稜君……。


鳴り続ける呼び出し音が、空しく響く。


ねぇ、稜君?

どうしても声が聞きたい時は、どうしたらいいのかな。


「繋がらないか……」

小さく呟いた私の声は、飛行機のエンジン音にあっという間にかき消されて、ゆっくりと携帯を下ろすと溜め息を一つ、空に向かって吐き出した。


一人で見上げた空は、こんなにも遠くて……。

どんなに手を伸ばしても届かない。


「……っ」

あぁ、そっか。

私、バカだなぁ……。

おねぇーに言われていたのに、私、泣くのも忘れてたんだね。


ここだったら、誰にも見られない。

そう思うと、もうダメだった。

次から次へと涙が溢れて、空を見上げる私のこめかみを、涙が伝い落ちていく。


涙がどれくら出るのかは、わからないけど……涙が出きったら帰ろう。

そんなことを思った瞬間だった。


~♪~♪♪~♪~

「……っ!」

手のひらの携帯の着信音が、一瞬静まり返ったその場所に、響き渡ったんだ。