「仕事、キツイか?」
「……いえ。大丈夫ですから、杉本さんは先に上がって下さい」
その日も私は、押し付けられた残業を黙々とこなしていて、目の前には、私返答にちょっと困ったように溜め息を吐く杉本さんが座っていた。
「佐々木さん?」
落ち着いた静かな声で名前を呼ばれ、ゆっくりと視線を上げた。
「はい」
頬杖を付く杉本さんの真っ直ぐな視線は、まるで私の思考を読み取ろうとしているようで、少しの戸惑いを覚える。
「“大丈夫”って言う人って、その前に“無理してるけど”とか“辛いけど”って言葉を隠してる人だと思うんだよね」
「――え?」
その言葉に、心臓が少し速くなる。
「無理してない?」
――“無理”?
「仕事なのか、私生活なのかはわからないけど」
杉本さんの言葉に、思わず黙り込んでしまった。
彼は、そんな私を少しだけ首を傾げ、覗き込むように見つめる。
「しんどいなら、助けたいんだけど」
「……っ」
息を呑んだのは、言葉のせいだけじゃない。
ゆっくりと伸ばされた杉本さんの長い指が、私の頬にそっと触れたから。
あまりも驚いて動けなくなった私の目を見つめたまま、彼は少しだけ口角を上げて笑う。
「俺、きっと佐々木さんのこと支えてあげられると思うよ?」
その言葉に、小さく震えた私の心。
でもそれは違うんだ。
スキとかキライとか、そういう事じゃなくて……。
震える指をギュッと握った私は、ゆっくり口を開いた。
「手を」
「え?」
「すみません。手を離して下さい」

