――それから数日後。
「佐々木さん」
残業をしている私に、声をかけてきたのは杉本さんで……。
あの日から、こうして残業をしていると、時々杉本さんが差し入れを持ってやって来て、仕事を手伝ってくれるようになった。
「杉本さん」
「今日も残業してるのか。大丈夫か?」
「はい」
いつもと変わりなく返事はしたものの、正直、気力も体力も限界に近かった。
あれから、杉本さんの事を稜君に話た方がいいのかどうか、散々悩んだんだけど……。
告白されたわけでもないし、かえって心配をかけるだけかもしれないと思って、稜君に彼の事は何も話していなかった。
だけど、こうして一緒にいる時間が増えて、前よりも杉本さんが身近な存在になったは確かで。
仕事とはいえ、それが私にまた罪悪感を抱かせる。
それに、最近稜君となかなか連絡が取れない。
メールをしても、数日返ってこなかったり、電話もすっかり減ってしまった。
私も私で疲れ果てていて、家に帰ると、ポーキーにゴハンをあげて、お化粧も落とさずベッドに倒れ込み、そのまま朝を迎えるような日々が続いていて……。
なかなか稜君に、電話が出来ずにいたんだ。
――こうして少しずつ、気持ちが離れていくのかもしれない。
そんな絶対に起こって欲しくない事態が頭に浮かぶのに、疲れてマヒした感情が、それを抑え込んで誤魔化して……。
私は、おねぇーの忠告をすっかり忘れてしまっていた。

