「えぇっと、東京都北区……」
「佐々木さん」
チカチカする目を時々ギュッとつぶりながら、相変わらずパソコンと睨めっこをしていた私は、後ろからかけられた声に振り返った。
「……杉本マネージャー」
いつの間に部屋に入って来たのか、そこには杉本マネージャーが立っていて、「はい」と目の前に何か差し出された。
「え?」
「ちょっとだけ、休憩しようか」
にっこり笑いながら彼が差し出したのは、白い湯気を立てる紙コップ。
えっと、まだ業務中なんだけど……。
驚いて目をパチパチさせる私を見て、「コーヒー、ダメだった?」と、ちょっと首を傾げる彼に慌てて首を振る。
「い、いえ! でも、まだ仕事中……」
私の言葉を遮るように、“しー!”っと、人差し指を立てた杉本マネージャーは、またあの時のように、子供のような笑顔を浮かべて言ったんだ。
「佐々木さんは頑張ってるから特別。みんなには秘密!」
「秘密、ですか?」
「そう。言われたら、俺が困っちゃうし。一応、管理職だし?」
コーヒーを啜りながら、疑問系でそんな事を言うから、つい笑ってしまった。
「やっと笑ったな」
「……え?」
突然向けられた、彼の言葉と優しい眼差しに、胸がドキンと音を立てる。
「いや。ここ数ヶ月、あんまり笑った顔見てなかったから」
そう言うと、杉本マネージャーは自分の手元のカップに唇を寄せ、フッと笑った。