「さて、準備しなきゃ!……っと」

大きく伸びをして、テーブルに置こうとした携帯が急に震え出したから、驚きながらも慌ててそれを開く。


“着信 川崎 稜”

画面に表示された文字を見た途端、胸がドキドキしはじめて、深呼吸を一つする。


「もしもーし。稜君?」

「うん! えっと、おはよー!……だよね?」

「そうだよー。今、朝の六時前!」

「そっか! 早起きだねー」

久々に聞く彼の声に、私の心臓がトクントクンと心地いい音を立てる。


「でしょー? あっ、昨日ごめんね……」

「ううん。あんな時間にかけた俺が悪いんだよ。だから気にしないでー」


“悪い”だなんて、思わなくていいのに。


「……空、キレイだったね。茜色で」

「うん。ちょっと思い出しちゃった」

「何を?」

「空港で一緒に見てた空」

稜君のその言葉に、せっかく引っ込めた涙が、また滲み出てくる。


「美月ちゃん?」

「うん」

「……大丈夫?」

それは、何に対しての“大丈夫”?


「淋しくない?」


ドクン――。


淋しいに決まってる。

淋しいけど。


「うん! 大丈夫だよ! こうして声も聞けたし!」

せめて、こうして時間を共有出来ている間くらいは、元気な私の声を聞いてもらいたい。


「そっか」

「うん。だから、心配しないで!」

私が強くならなくちゃ。

移籍の話しをしてくれた時に、何度も“ごめん”と謝った稜君。

稜君にはもう、あんな悲しそうな顔はして欲しくない。