二人きりのスタッフルームに、向かい合って座った私と杉本マネージャー。
取りあえず一番高いコーヒーを淹れてみたけど、普段ほとんど喋った事がない相手なだけに、ちょっと気まずい。
そんな空気を感じ取ったのか、杉本さんはふわりと柔らかい表情を浮かべて、ゆっくりと口を開いた。
「佐々木さんは、この仕事が好き?」
「……は、はい」
ちょっと間が空いてしまったのは、その質問の意図が全くわからなかったから。
これは何だろう?
まさかのリストラ面談?
間違えた回答をすると、査定に響くとか……?
「あぁ、ごめんね。別に、返事次第で仕事がなくなったりするわけじゃないから」
そんなにも表情に出してしたっていたのか、クスッと笑った杉本さんに苦笑いを返す。
「あ、それなら良かったです。安心しました」
それにしても、女子社員の皆様に見せてあげたい、この笑顔。
よくわからない返事をしてしまった私を見て、また楽しそうに笑っているし。
エリアマネージャーである彼は、この辺一帯の店舗を忙しく回っているから、話すのなんて、機会があれば一言二言という感じ。
つまりはプライベートの彼なんて全く知らないわけで。
こんな顔で、こんなにも簡単に笑うのかと、ちょっと不思議な気持ちになった。
「うん。決めた!」
「え?」
「やっぱり、佐々木さんに決めたよ」
「は?」
「佐々木さん、俺と一緒に本店で働こう」
「……はい?」
目の前で頷きながら、一人でニコニコ笑う杉本マネージャーと、置いてけぼりをくらって、ポカーンとする私。
温度差がありすぎる。
「あの、すみません。仰っている事が、よくわからないのですが」
「あぁ! そっかそっか! ごめんね」
戸惑う私に、杉本マネージャーはまた柔かい笑顔を浮かべた。
「実は、今度本店のマネージャーになる事になってね」
「えっ!? そうなんですか!! おめでとうございます!」
「あー、ありがとう」
「すごいですねー!」
やっぱり優秀な人なんだなぁと感心している私の目の前で、マネージャーは少しだけはにかみながら頭を掻く。
「なんだかね。俺もビックリだよ。……って、俺の話は後にして、佐々木さんの話ね」
「あ、はい」