稜君がイギリスに渡って、もうすぐ三ヶ月が経とうとしていた。

そんなある日の事。


「佐々木さん」

不意に後ろから名前を呼ばれ、振り向くと、そこには一週間に二度ほど店舗に顔を出す、エリアマネージャーの姿があった。


「あっ、お疲れ様です! いらしてたんですね!」

「あぁ。ちょっと佐々木さんに話があってね」

そう言って、目の前の杉本マネージャーはにっこりと笑った。


杉本マネージャーは、まだ三十代半なのに、すごく優秀な人。

穏やかな性格と恵まれた容姿から、毎年「結婚したい男性社員No.1」に選ばれるような――いわば、女性社員の憧れのような存在だ。

まぁ、私は当然、稜君の方が断然カッコイイと思うけど。

そんな事を内心思いながら、ちょっと首を傾げた。


「私、ですか? 何でしょう?」

「えっと……ここじゃ、ちょっと話しにくいから、奥に行こうか。丁度お客さんもいないし」


レジ付近にいた店長に一言声をかけた杉本さんは「じゃー、行こうか」と、にっこり微笑んで、私の前を歩き出したんだ。