「ねぇ、美月ちゃん?」
私をそっと離して、屈んで視線を合わせた稜君は、少しだけ首を傾げるようにして私の顔を覗き込む。
「辛くなったら、空見て」
「空?」
「きっと俺も、美月ちゃんと同じように何回も見上げてるから。ずっと、繋がってるから」
それはきっと、日本とイギリスの空の話。
そして私と稜君の、心の話。
聞こえるか聞こえないか、本当に微妙な大きさの声だったと思う。
まるで自分に言い聞かせるように何度か頷いて、やっと「うん」とだけ口に出来た。
だけど、やっぱり零れてしまう涙を、稜君はそっと拭う。
「美月ちゃん、約束して?」
「約束?」
「うん」
私の瞳をじっと見つめたまま、稜君は視線を逸らす事なく言葉を繋げた。
「辛い時は、ちゃんと“辛い”って言って。淋しい時は、ちゃんと“淋しい”って言って」
「……」
「俺は――俺の知らない所で、美月ちゃんが一人で苦しむのが一番辛い」
稜君……。
「それがわからなくて、気持ちが離れるのが死ぬほど怖い」
稜君。
「――稜君」
「うん」
「淋しい」
「……うん」
今日だけ。
今だけ、こんな事を言ってしまう私を、許して下さい。
「稜君、淋しいよ……っ」
明日からは、もうこんなこと言わないから。
「俺も淋しいよ」
「……っ」
この人の、この温かい腕の中でだけ、私は本当の自分でいられるんだ。
「稜君、大好き。頑張ってね」

