「さむーっ!!」
大きなエンジン音に負けない程の大きな声を上げ、首を竦めた稜君は、ちょっと後ろを歩く私を振り返る。
「手ー出してっ!」
そして、私が差し出した手をギュッと握った。
「稜君の手、温かい」
「うん! 俺、子供だから、体温高いんだよねー」
「あはは! そっか」
「否定しないんだ!!」
まるで、いつも通りの明日がくるんじゃないかって、そんな錯覚を起こしてしまいそうな会話。
だけど、稜君は明日、日本からいなくなってしまう。
この手の温もりも、しばらくは感じられなくなるんだ。
やっばりダメだなぁ……。
喉のあたりがグッと痛くなり、涙が零れないように見上げた空。
「明るすぎて、星はやっぱり見えないねー」
「……うん」
小さくポツリと言葉を落とす稜君は、きっと見てる。
「稜君」
「んー?」
「私じゃなくて、空見なよー」
「……うん。でも、泣きそうだから」
その言葉を聞いた瞬間、やっぱりここに来るべきじゃなかったのかもって、そう思ってしまった。
ここは、稜君と私の大切な場所。
それが悲しい場所になってしまいそうで……。
でも、そんな事を考える私を、ギューッと抱きしめた稜君が言ったんだ。
「来てよかった。ここに来る度に、美月ちゃんの事をもっともっと好きになる」
「……」
「この場所、美月ちゃんにしか言ってないんだよ?」
「そう……なの?」
「うん」
クスッと小さな笑いを漏らして、私を抱きしめる腕に力を込める。
「これからもずーっと、二人だけの秘密」
「うん……」
“ずーっと”。
いつもは嬉しいはずの稜君のその気持ちが、今は私の胸を痛いくらいにしめつける。

