「さて……」
食事を終えた最上さんが、テーブルの上に頬杖を付き、笑いながら、私を見据えた。
その表情に、何となく嫌な予感がする。
だけど、私のそんな気持ちに気付くはずもない彼は、ちょっと首を傾けて、
「この後の予定は?」
そう訊ねてきたんだ。
さすがに、夜の九時過ぎから予定のがある方が珍しいと思った。
今更“十時に友達が来るんで”というのも、何だか白々しいし……。
「……」
どうにかしてこの場を切り抜けようと考えていた私に、スッと最上さんの手が伸びた。
「え?」
困惑しながら顔を上げた私の頬に、最上さんのゴツゴツとした手が触れる。
「あ、あの」
「ん?」
しかも目の前のその人は、悪びれる様子もなく、変わらない笑顔を私に向けたまま。
「あの……私、彼氏いるんです」
「うん。知ってるよ? 二次会の時、聞いたし」
「……」
そうなんだ。
私は、あの結婚式の二次会で、自分に彼氏がいるという話をしていたから。
だから今日だって、どこかでそれが予防線になるだろうと、高を括っていたんだ。
「彼氏がいても、俺は気にしないよ?」
さっきと変わらない、張り付いたような笑顔を浮かべる最上さんに、鳥肌が立った。
――私は、そういう関係は大嫌い。
「すみません、最上さん」
「ん?」
「こうしてお食事をご一緒させて頂いたのに」
「……」
目の前の最上さんは、笑顔を崩すことなく、私の言葉の続きを待っている。
「でも、私はそういうのは無理なので」
きちんと目を見てそう告げた私に、彼は一瞬驚いたような表情を見せた。

