「稜君って、お料理も出来るんだねぇ」
隣に立つ稜君の手元を覗き込んだ私は、しみじみ呟いた。
「んー? “お料理”ってほどでもないけど、いちおー」
そんな事を言いながらも、稜君は鼻歌交じりに手に持ったタマネギをトントンと小気味のいい音を立てながら刻んでいく。
「ご、ごめんね」
「へっ? 何が?」
「お料理も出来ない彼女で、何だか申し訳ない気持ちでいっぱいです」
シュンと視線を落とす私を見て、何が面白いのか大笑いしてるけど、笑い事じゃないし……。
でも稜君は、どこまでも心の優しい彼氏で。
軽くいじける私の顔を覗き込む。
「別に出来なくてもいいよ~」
「え? 何で?」
「だって、大事なのってそんなトコじゃないでしょ?」
「でも、お料理出来る女の人っていいと思わない?」
そう訊ねた私から一瞬視線を外し、上を向いて唸った稜君は、視線を戻して言ったんだ。
「すごいとは思うけど……。今、婚活とか言って、お料理教室に通ったりする人もいるんでしょ?」
「あー、らしいね」
私はよく知らないけど、同じ職場のお局さんは、稜君が言うように毎週婚活の為にお料理教室に通っているらしい。
だから、実際にそういう人もいるのだろう。
「そう言うの聞くとさ、“そうじゃないでしょ!?”って思うんだー。“大事なのは、そういうんじゃない!”ってねー」
「……ふふふっ」
稜君らしい言葉に、思わず緩む頬。
「えー? 何か俺、楽しいこと言ったー?」
「ううん。ただ、私も同じこと思ってたから」
別に言い訳とかじゃないし、個人の自由だとも思うから、否定するわけではないんだけどね。
何となく、ちょっと違う気がするって……そう思うだけ。
「そっか! やっぱりそうだよねー」
そんな私にニッコリと笑顔を向けた稜君は、今度は足元からフライパンを引っ張り出している。
「でも、お料理は頑張る事にする。で、稜君にゴハン作る」
「ホントにー? また楽しみ増えちゃった!」
取り出したフライパンをコンロに乗せた稜君は、一瞬目をパチパチとさせたあと、私の頭をポンポン撫でて、嬉しそうに笑った。